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「逢桜(アイラ)、お待たせって、何泣いてんの。やばいよその顔」
校庭の隅に咲く老桜に目を向けていた逢桜は、制服の袖で頬を伝う涙を慌てて拭う。
「今日さ、立志式だったじゃん」
逢桜の通う中学では新三年生となる日に立志式が行われる事が、創立時からの恒例だった。
「あー、もしかして親からの手紙で泣いてたの?
姉貴達が言ってたけど、あの手紙ってさ、毎年名前の由来とか、将来どんな人になって欲しいかってのを書くって決まってるんだって」
逢桜の友人の茉莉(マリ)が黒目がちな大きな瞳をクルリと動かしながら言う。
「そうなの?」
「うん。それ聞いていたから何か感動が無くてさ。
だってテーマに添って無理やり書いたって感じ?」
茉莉の名前はジャスミンの花から付けられた。
それは茉莉が生まれた産婦人科の窓から、真っ白なジャスミンの花が見えたと言う、何とも単純な経緯だった。
「ウチはさ、女四人姉妹じゃん。流石に四人目ともなるとネタ切れだったんじゃない?
それ知ってんのに、ジャスミンの花言葉とか引っ張り出してきて『愛らしく、優雅な女性になって欲しい』何て書かれてもね」
そう言って、ケラケラと笑う。
「処で逢桜の名前って珍しいよね? どんな意味があるんだって?」
「うん・・・
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