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「心中でもしたら、最高に気持ちよくなってずっと一緒にいられるんじゃないかって、考えることもあった」
こころは目を細めた。
「だけど、首を絞めるときも、階段を突き落としたときも、いつも雪野が浮かんだ。あと一歩、あと一歩で、潤平に最高に喜んでもらえるって思うときに、雪野の涙が、浮かぶんだ。僕を引き留めるの。心にひっかかって、僕を止める」
存在意義を失い、逃げた自分。泣くことしかできなくなった、自分。それが──
「病院で一命を取り留めた潤平を見て、思いだした。僕は潤平を守りたかったはずなのにって。穏やかに眠る潤平の静かな寝息を聞きながら、泣いた。そしてまた思い出した。雪野の涙を。それでね、やっと気づいたよ」
こころは俺の手を両手でそっと握った。
「中学生の僕だったら、潤平に完全に飲み込まれてた。戻れなかったと思う。気づけなかったと思う。潤平を殺していたかも。僕がそうしなくても、潤平は自分で命を絶っていたかもしれない。だけどあの、数年。雪野がくれたあの時間が、雪野が流してくれた涙が、僕と潤平の今を、くれた」
握った手は震えていた。寒いのか、まだ荒れていたときの俺を思い出して怯えているのかはわからない。それでも、触れ続ける。
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