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「んっ」  短い声とともに、プツっと何かが切れるような感触がした後、口の中に血の味が広がった。  僕は我に返り、潤平の胸を押して身体を遠ざけた。 「ごめん! 潤平! 舌……! 大丈夫!? 見せて!」  まだ僕の口の中に残る潤平の血の味。噛み切ってなどいないが、深く傷つけたに違いない。潤平は手のひらで口を覆っている。もう片方の手で僕を制し、大丈夫だと手を振る。 「保健室……! 口の中って消毒してもらえるのかな!?」  潤平のをしまってベルトを締めて、身なりを整える。手を引いてトイレの個室から出ようと扉を開くが、潤平は足を止めて着いてきてくれない。 「シン、大丈夫だよ。ちょっと切れただけ」  ほら、と言って口の中を見せてくれる。舌の先の方で、血が滲んでいた。まだ止まる気配もなく後から後から血が溢れてくる。  僕の血の気が引いた。
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