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「こころ」
そっと僕の両手が捕まれ、耳から離される。
潤平のような優しい声音。けれど僕を「こころ」と呼ぶのは雪野だけだ。小学生の時から、何度も読み方は「しん」だと言っているのに、時折からかうように僕を「こころ」と呼んだ。
僕の前にしゃがみ込んだ雪野は、僕の顔を覗き込みながら、潤平みたいな声を出す。
「そんな辛い?」
「うん……」
「何が辛い?」
「潤平が、いつか、死んじゃう……」
「だから俺が、死なないように傷めつけてるじゃん。殺さないようにすっから」
「殺さなければ、いいってもんじゃない……!」
雪野は溜息を吐く。
「こころが、やってみればいいじゃん。お前の力で容赦なく殴ったり蹴ったりしたところで、潤平は死なないだろ?」
僕は首を振る。
そんなことは、とうの昔にやってみた。僕なりの精一杯の力で、泣きながら潤平に暴力を振るった。けれど駄目だった。
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