143人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
十年ぶりにマンションの階段を登る。壁は何度か塗りかえられたのか、記憶のものとは少し色が違っている。鍵はまだ持っていたが、さすがに勝手に入るのは気が引けて、インターホンを鳴らす。家にいるだろうか。入院の準備やなんかで忙しいかもしれない。
そこで気がつく。あいつに入院の準備だとか手続きだとかできるだろうか。
呆気なくドアは開かれた。
暗い色の髪。俺と同じ顔。真冬なのにTシャツ一枚。
俺と同じ顔をした、潤平だった。一瞬目を丸くしたあと、緊張感もなく笑いだす。
「わー雪野だあ。久しぶりー。っていうか髪ウケる! 同じ色じゃん! 髪型も一緒! やっぱ双子すげえ! お、スーツじゃん! あはは、なんかちゃんとした大人になってるー!」
へらへらケラケラ笑う潤平に苛立って頭を掴んで玄関に押し込み、自分もさっさと中に入った。
「いてて。もー、暴力的なのは変わんねえなー」
「誰のせいだ誰の!」
「ああもう。わかってるよ。入って。シンも手伝いに来てくれてるから」
こころ。
びくりと心臓が跳ねた気がした。
「潤平? もしかして雪野来たの?」
声とともに玄関に顔を出したのは、背丈も体型はまったく変わっていないこころだった。少し大人びた地味な顔。どこが変わったのかはわからないのに、確かにそう感じるのが不思議だった。
最初のコメントを投稿しよう!