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「雪野、久しぶり」
にっこりと笑ったこころに、気持ちは沈む。微笑まれて落ち込むとは変な話だが、こころが正気のときに俺に笑いかけるなんてことはほとんどなかったから、その浮かべられる笑みが、壊れてしまったこころである証拠な気がして、目を反らしたくなった。
「よお、こころ」
「シンだってば。雪野、成人式も帰ってこなかったから本当に久しぶりだね」
「あんなん出たってしょうがねえだろ」
「おばさんは、二人が揃うところ見たがってるよ」
こころがそんなことを言うとは、意外だった。
俺たちを放置していた親を、こころは俺たち以上に嫌っていたから。
「なんだよ、いつの間にばばあと仲良くなったんだよ?」
「ばばあって……見かけが真面目になったところで、雪野は雪野だなあ。その言葉遣い、なんとかならないの?」
「言うようになったじゃねえか」
俺が睨むと、こころが小さく「ひ……っ」と悲鳴を上げた。
「雪野、シンを苛めないでよ。母さん、離婚してから変わったんだ。いや、家より仕事が大事な人なのは変わらないし、どっかに男もいるんだろうけどさ。俺やシンの話を、ちっとも面白くなさそうにだけど、聞くようになったんだ。まずいけど飯を用意してくれることも増えてさ。まあ、俺のことは気持ち悪いとかよく言うけど」
「へえ。親父も、俺に大学行けとか急に父親面するようになったな」
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