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離婚するときに、二人が何を話し合ったのかは知らない。知ろうとも思わない。けれど母親が、潤平の母親として不器用にやり直そうと努力したことはわかった。それを潤平もこころも、認めたのだと。
「まあ雪野、座っててよ」
へらっと潤平が笑ったのを合図に、こころが何かを思い出して慌てだした。
「そうだ着替え! お母さんの着替えどこにあるの? 早く探さないと! それに潤平も早く着替えてよ。このあと先生から話があるんでしょ? 時間決まってるんだから! 早く!」
「あー、忘れてた。ちゃんとした服探してたんだった」
「それでお前はそんな寒々しい格好してたのか」
二人がバタバタと洋服ダンスとクローゼットを漁りだしたのを見て、俺はリビングの椅子に腰を下ろした。如何にも古い、ところどころヒビの入った木の椅子は、十年前に俺が潤平を酷く殴りつけたものだった。
あの頃の俺は、今思えば何か精神的なバランスが崩れていたのかもしれない。
弟を、殺さなければならない。殺さないように、何度も殺さなければならない。傷めつけなくては。傷めつけて動けなくなれば、馬鹿なこともできなくなる。
だから目一杯、俺は潤平を殴り続けた。喧嘩に連れていって、酷い目に合うように仕向けたこともある。それでいてあいつのケツの穴に自分のを突っ込んでいたのだ。我ながら、相当イカれていたと思う。
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