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数十分探し続けた結果やっとスーツを見つけたらしい二人は、ようやく腰を落ち着けた。今日は母親の実家の方の人間も田舎から出てくるらしい。
「ほら、俺は頭のおかしい残念な孫だとじいちゃんは思ってるしねー。任せておけないんだろうなあ。ほんとのことだけど」
「ばばあのじじいとか会ったことあったか?」
「あはは、ばばあのじじいっておかしい!」
いつもより……と言っても、高校のときの記憶だが。その頃よりさらに頭のネジが飛んだみたいにへらへらしている潤平に違和感を覚え、こころを見る。俺の視線に気がついたこころは、少し悲しそうに笑った。
その笑顔は、以前の、壊れる前のこころのもののようだった。
「潤平、僕ちょっと忘れ物。家に取りに行ってくるね」
「うん。わかった」
こころが俺に「潤平と話せ」と言っているように感じた。
こころが出て行った潤平と二人きりの空間は、自分の居場所に戻ってきたような安心感がある。失くしていた自分の一部が、戻ってきたかのように。
同じ顔。
傷一つない今の顔は、俺とまったく同じだといえた。しかし、先ほどTシャツ姿のときに見えた身体には、いくつもの真新しい傷があった。刃物で付けられたようなものも、何かで殴られたような打撲痕も。こいつが変わっていないことは、それでわかった。
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