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一つ階を上がってこころの家のインターホンを鳴らすと、すぐにドアは開かれた。
「潤平、泣けた?」
そう言って苦笑するこころに頷くと、こころは「ちょっと散歩しよう。まだ少し時間あるから」と俺を連れだした。
河川敷は冷たい風が容赦なく吹き付け、自然と身を縮こませた。寒がりだったはずのこころは、しゃんと背を伸ばして俺の一歩前を歩く。背丈は変わっていないと思ったのに、小さな背中が少しだけ大きくなったような気がした。
高校のときのあれ以降、こころと二人きりになるのは初めてだった。
「ありがとうね、雪野。潤平僕の前だと泣かないからさ」
「なんもしてねえよ」
「ありがとう」
こころが足を止める。
「雪野、ありがとう」
振り返って、こころは俺に向かって深く頭を下げた。そんなに礼を言われるようなことでもないのに、と疑問を持つ。むしろ、俺ん家の身内の問題にこころの手を焼かせているだけなのに、と。
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