143人が本棚に入れています
本棚に追加
「こっちこそ。潤平あんなんだから、どうせこころが親戚に連絡したりしたんだろ? ありがとな」
俺の言葉を聞いて頭を上げたこころは、目を丸くする。
「雪野が人にお礼を言うなんて……」
そこかよ。
「悪かったな。礼も言えないガキで」
「……ううん。あのときの雪野が、何を抱えていたのか、今なら僕もわかるから」
こころが微笑む。
「僕ね、潤平を殺しかけたんだ」
……予想していた。今まで人なんか殴ったこともないこころが、上手く加減できないで潤平を殺してしまうこと。
わかっていたのに、俺はそれを見たくなくて逃げた。潤平が死んだという連絡が入らないか怯えながら、あれから生きてきた。
「潤平に言われるままに、いろいろしてた。潤平が喜んでくれるから。潤平とセックスできるから。あんなに潤平を傷つけたくなかったのに、そんな自分がどこか遠くにいってしまった」
こころは沈む夕陽に目をやった。遠くにいってしまった自分の姿を、探しているかのようだった。夕陽は、大して綺麗でもない川の水をきらきらと輝かせ、綺麗に見せている。夕焼け空に、昔の二人を思い出した。手を繋いで、歩いていた二人を。
最初のコメントを投稿しよう!