01)赤い屋根の洋館

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自宅アパートから大学を挟み一駅。初めて降り立つ場所だった。 スマホの地図アプリに従い、駅近くにある賑やかな商店街を行く。 そして、最初の道を西に一本入ると、さっきまでの喧騒(けんそう)はどこへやら、音量1ぐらい静かな路地に出る。車が一台通れるかどうかほどの道幅だ。 「こんな閑散(かんさん)としたところにお店を出して儲かるのかなぁ」 どうやらこの辺りは、古くからある閑静(かんせい)な住宅地らしい。 探検気分でキョロキョロ周りを見回し、路地を進む。 「ええっと、この辺だと思うけど」 地図上の赤い矢印はすでに目的地を指している。 おかしいな、と前を見るとブラックボードに白く『メモリー』の文字。 「あった!」 路地に入った時、ウナギの寝床のような店を想像した。でも全然、違った。 「うわぁ~」と感嘆の声が漏れる。まるで別世界だ。 手入れの行き届いた広いフロントヤードには、整えられた深緑のコニファーやオリーブの樹。その足元には冬期だというのに草花が繁々と生えている。 「いい香り」まるで植物園のようだ。 緑の合間には赤レンガの小道が通っている。路地に佇んだまま、視線だけで小道を辿ると、その先に、赤い屋根と白い壁のクラシカルな洋館が在る。 「素敵なお店」 「ーーありがとう。香りの元はハーブだよ」 エッ! と突然の声に振り向き、唖然と目を見張る。
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