01)赤い屋根の洋館

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オーナーはカウンター横のドアを入り、厨房側に回ると、持っていた紙袋をシンク横の台に置く。そして、中からフランスパンや卵を取り出し、所定の位置に収めていく。 片付けが終わると、「お待たせ。コーヒーでいい?」とニッコリ微笑む。 ドギマギしながら「はい」と返事をすると、コーヒー豆をミルに入れ、カリカリと挽き始める。途端に濃い(こう)ばしい香りが漂ってくる。 挽き終わった豆をドリッパーの移し、ステンレス製のケトルでお湯が注がれると、更に(かぐわ)しい香りが立ち上り鼻腔をくすぐる。 ジッと見つめていたからだろうか、「普段はハンドドリップはしないよ。いつもはアレ」とマスターが指した先には業務用のコーヒーマシーン。 弥生ちゃんから厨房はマスターだけと聞いていた。 なるほど、と小さく頷く。 視線をもう一度サーバーに戻し、ポタポタ落ちる黒い液体を見つめていると……ゴクリと喉が鳴る。 「コーヒー、好きなの?」 ゴクリを聞かれた! また恥ずかしいことをしてしまった。 「……はい。父が好きなので、家にいる時はいつも付き合って飲んでいて。でも、今は金欠で、インスタントもなかなか飲めなくて……あっ、いえ……」 あぁ、余計なことを……。 オーナーはクスッと笑って、そうなんだ、と穏やかに言いながら、ソーサー付きのコーヒーカップをカウンターに置く。 これ、マイセンのブルーオニオン。数万円するものだ。 「お代わりもあるから、遠慮なくどうぞ」 そう言って、オーナーは大きなマグカップに口を付ける。 私もマグカップでよかったのに……恐る恐る高価なカップを手にし、一口啜ると途端に笑みが零れる。 「わぁ、美味しい! 癒される味ですね」 「素敵な感想をありがとう。嬉しいよ」 あれっ、今、眼鏡の奥の瞳が輝いた?
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