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「響も香織ちゃんも気を付けろよ。なるべく毎日顔を出す」
妙快さんは、私たちを大通りで車から降ろすと、そう言い残し、弥生ちゃんと帰って行った。
私は響さんに手を取られ、商店街に入る。
いつもと変わらない夕方の風景。なのに……セピア色に色付く商店街にノスタルジーを感じ、泣きたくなる。
「香織、迷惑かけてごめん」
そこにタイミングが良いのか悪いのか、響さんからの謝罪の言葉。
「ーーどうして響さんが謝るのですか?」
謝る必要などない。京香さんのことを謝ってもらったところで、過去は変わらないし、彼女の『好き』も止められない。
でも……そうと分かっているのに……イライラする。
「京香のことで当分、不自由な思いをさせる。それと、君を守る、と言っておきながら、逆に危ない目に合わせている。だから……」
ああ、そうか、分かった。呼び方だ。
響さんが京香さんのことを『京香』と呼び捨てにするからだ。
長い付き合いの弥生ちゃんでさえ『藤宮』と苗字呼びなのに……。
それが響さんと京香さんの過去を否応なく物語るからだ。
例え同情だったとしても、錯覚だったとしても、一時は何らかの思いがあった筈だから……。
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