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「確かに碁の腕じゃ賢の方が上だが、俺は清に勝ってもらいたいな」  温和で優しく、春の陽だまりのような笑顔を見せる清を推す者が多い。が、中には、常に冷徹で感情に流されない賢の方が商家の主としては相応しいと言う者もいる。   使用人たちの話は無論二人の耳にまでは届かない。  賢も清も腕を組み、じっと盤面を睨んでいる。  その二人の周囲を、はらはらと桜の花びらが舞っていた。   賢の黒番で始まった勝負は既に中盤戦に入っている。 「今日は本気だな、清。小麗が賭かっているからか?」  強引に取りに行った白石に上手く逃げられて、賢が清に問う。 「いつも本気だよ。兄さんが僕より少し上手いだけさ」  清が盤面から目を離さずに答える。 「わかった。そういうことにしておこう」  賢と打つ時、清はいつも控えめな手を打つ。結果として数目の差で賢が勝つ。だから周囲は賢の方が上手だと見る。が、実際二人の腕前は互角に近い。
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