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 長安の北に居を構える李家は、大唐帝国でも屈指の大商家であった。  庭には百本の桜が植えられていて、春になれば毎年近隣の者が花見にやってくる。  その綺麗な薄紅色の花の中で、二人の男が対峙していた。  椅子に腰かけ、碁盤を挟んで向き合う二人を、李家の使用人たちは遠巻きに見守っている。 「大旦那様は二人とも気に入ってるが、こいつばかりはどっちか一人に決めなきゃしょうがねぇしな」 「それにしても、碁の勝負で勝った方に店を継がせるっていうんだから、大旦那様の囲碁好きにも困ったもんだ」  劉家の兄弟、賢と清は十年ほど前に親を亡くし、遠縁にあたる李家に引き取られた。兄の賢が十二、弟の清が九歳の時のことである。二人とも利発な少年で、読み書き算盤、全てにおいて申し分のない資質を持っていた。 「しかし、碁の勝負となるとこいつは賢の方が有利だな。俺は賢に張ろう」  使用人たちの間では早くも賭けが始まっている。 「でも小麗お嬢さんは清の方に惚れてるんだろ。俺は清に張るぜ」  李家の一人娘小麗は弟の清と相思相愛である、という噂がいつの間にか広まっていた。実際、仲睦まじく歩く二人の姿を街で目撃した者は少なくない。
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