RAGOU─9

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 溜息を吐く蘇摩だったが、対して羅喉はそれを気にする事も無く紫煙を燻らせている。 「……やれやれ。これまでの計都の苦労が少し身に沁みて分かった様な気がします。……私も缶コーヒーを一本戴きますよ?」  と、箱買いしたまま段ボールで常温管理してある缶コーヒーを一本取り出すと、羅喉の対面のソファに腰を掛ける。 「貴方のいい加減さにこれから慣れていかないといけないみたいですが……自分の頭で動けというならそうしましょう。予測も着かない状況に無理矢理追い込まれてしまったみたいですね、私は。……これも貴方の策略通りですか?」  前に体重を掛け、やや開いた長い脚の膝の上に両肘を突きながらコーヒーのプルタブを開ける蘇摩。  片方の目は長い前髪に隠れているが、見えている左目は鋭い視線を羅喉に向ける。  ナチュラルに盛られた長い睫毛を携えた切れ長の目。  その漆黒の瞳は、ボサボサの茶髪の奥に潜む羅喉の表情を読み取ろうとする。  ……だが。  無表情の羅喉の顔から読み取れるものは何も無かった。  そこで蘇摩は質問を変える。 「そういえば……昨日の解散前に弥勒が貴方にした質問。あれはどういう事です?貴方が幾つの能力を使えているのかという……私はてっきり皆が知らない能力でも貴方が隠し持っているのかと思ったのですが、弥勒と万無様の様子を見てればどうも違う様ですし。何か三人にしか知り得ない秘密でも有るのではないかと」  そう……蘇摩は一晩考えていた。  羅喉の能力は“筋力強化”、“記憶力”、“聴力”、“気配察知能力”、“血液操作”の五つ。  その内の一つでも有していれば、充分特異なのだが、羅喉は全てを持ち合わせている。  五つをフルに使うとどうなるのか、蘇摩や他の能力者にも想像する事が難しい。  だから羅喉が何かしら想像を絶する事を()しても、妙に納得してしまうものだった。  しかし昨日の弥勒の言葉で、蘇摩は違う可能性を考えた。  だが……有り得なかった。  自身が導き出した可能性はあまりにも荒唐無稽。  なので蘇摩は本人に直接聞こうと、今二人きりのタイミングで切り出したのだった。
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