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コポコポと液体の泡立つ音が耳の奥に響き、目を覚ました。
明るい窓の外から朝の気配を感じつつ、気だるい身体をむくりと起こす。
隣に居たはずの人は既にベッドの中にはおらず、キッチンから振り返った。
「起きた?」
右手で瞼を擦りながら、朦朧とした頭を現実へ呼び戻そうと働き掛ける。
「…………ごめん……今何時……?」
不意にその手に違和感を覚え、顔の前に近付けると薬指に光る貴金属を認めた。
目を瞬き、一気に頭が冴え渡る。
「……えっ、これって……」
じっと見つめると、前回のデートの時に眺めていた指輪だと記憶が蘇った。
「……クリスマスプレゼントも、用意してくれてた……?」
「……別に。俺のものって印、付けたかっただけ」
背を向けたままで俺様な台詞を吐いているが、後頭部から覗く耳が微かに赤い。
こんなキザなサプライズをされたのは生まれて初めてで、感極まって崩壊しそうな涙腺に気付き、胸元に布団を握り締め唇を歪めた。
「サイズ合ったみたいで良かったわ。金子さんが直してくれるって言ってたけど」
照れ隠しのように矢継ぎ早に告げるが、わたしの反応がないので振り返った。
床を踏み締める足が近付き、隣に腰掛ける。
「……そんな、泣く程のこと……?」
「……だって……」
目元に伸ばされた指が、伝う水滴を遠慮がちに拭う。
歪んだ視界の向こうに目を凝らすと、頬を染めた顔が目線を落とし、わたしの右手を取った。
「左手のが良かった?」
「えっ」
「……いつか買ってやるから。本物」
本物。その言葉を僅かに巡らせ、すぐにピンと来て顔を赤らめた。
……それって、婚約指輪……!?
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