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「……愛唯ちゃん、今年結婚するって言ってたねー。カナダ人の彼氏と」
今日も南の空に光るオリオン座を仰ぐと、俊弥も黙って倣っていた。
「……地球規模でみたら、俺らのいざこざなんか、相当些細なことなんだろうな」
「……そうだね」
くすくすと笑みを零した後、しばし沈黙が訪れる。
触れ合う肩から、緊張と安らぎが同時に流れ込んで来るようで、頬を撫でる冷たい空気に心を洗われた気持ちだった。
「……ずっと気になってたんだけど……どうして、戻って来ようと思ったの?」
再会した頃から心に留めていた疑問を、自然と投げ掛けていた。
「……初心に返りたかったから」
「初心?」
「……その頃、前の彼女が結婚持ち出して来てさ……全然、その気になれなくて。……それで、お前のこと思い出したんだよ」
きょとんとして目を向けると、暗闇に慣れて浮かび上がったのは、意志を湛えた瞳だった。
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