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「だってお前、俺と結婚してくれるんだったよな?」
瞬間、言われたことがわからなくてフリーズしてしまう。
「……へっ!? 何言って……」
言葉の意味を理解して、驚きの余り体を引いたわたしの顔は、きっと耳まで真っ赤だろう。
「……覚えてねぇのかよ……お前なぁ、人がどんな思いで……」
「おっ、覚えてるよっ!」
わたしに負けず劣らず顔を赤く染めている人に鼻息荒く食って掛かり、骨張った左手を両手で包み込むように握った。
大きな瞳をじっと見つめ、恥ずかしさから逸らしたくなった衝動はぐっと堪えた。
あんな幼い日の約束を、俊弥も覚えてくれていた。
「……そっか」
作為無く向けられた、穏やかな笑顔に心臓が跳ねる。
「……まぁ、そうなればお前にも新しい家族というか……父親も出来るだろうし……」
「……えっ!? お父さん居るの!?」
突如明らかにされた、わたしの知らない生い立ちに仰天し、身を乗り出した。
「……やっぱわかってなかったよな? 俺、今は片親じゃないから。」
「……再婚されたの?」
「そう」
「……市川って、お母さんの姓じゃ……」
躊躇しつつも尋ねると、丁寧な受け答えをしてくれる。
「あぁ、それは母さんの姓。父親……蒼介さんが、市川の姓に入ってくれたから。俺が2回も苗字変わったら可哀想だからってさ」
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