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こうせねば死んでしまうのだ。 生きるには、奪うしかない。 生きるために奪うことの、何が悪い。 暗い底なしの穴のようだった明日が、一転明るく開け、空腹の身体を動かすのも苦にならない。 辺りはすっかり日が落ちていた。 今夜の寝床を求めて、闇に沈んだ大路に踏み出した。 男は、塀の崩れた廃寺を見つけた。 一晩、雨をしのぐことはできそうだ。 男は、廃寺の敷地へ踏み込んだ。 今、塀に沿って走ってきた西寺とは比べるべくもない、小さな寺だ。 濃密な闇の中、小屋のような本堂の名残と、その脇に老木が植わっているのが、かろうじて見てとれた。 本堂の屋根は半分腐り落ちていた。 男は、地を踏む自分の足音に紛れて、衣擦れの音を聞いた気がした。 足を止め、辺りをうかがう。 老木の根元に、誰かがうずくまっている。 微かなうめき声が、聞こえてくる。 行き倒れかもしれないと思った男は、ほくそ笑みながらゆっくりと老木へと向かう。 暗闇の中でも、うずくまっているのが女で、自力で動けそうにもないほど弱っているのがわかるくらい近づいた時、老木に隠れてもう一人男がいることに気づいた。 真っ白な上等な着物を着た、美しい男だった。     
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