3/8
前へ
/8ページ
次へ
その男が、女に向かってふわりと手を振ると、老木の根元が動いたように見えた。 それは、次第に明らかに動いているとわかるほどに激しくなり、横たわる女に絡みついた。 老木の根だ。 女は、一度大きく呻いて、すぐに静かになった。 何本もの根が女の姿を隠すほどに絡みつき、やがて何事もなかったように土の中へと戻っていった。 後には、女の姿はなく薄汚れた着物があるばかりだ。 「く、喰われた・・・」 男の声に、老木の裏から白い着物の男が姿を現す。 すべてが整いすぎて、まるで人形のような男だった。つるりとした白い肌に、作り物めいた漆黒の瞳。白い着物のせいか、闇の中でぼんやりと光っているように見えた。 「ば、化け物・・・。人喰いの・・魔物」 男は、腰を抜かして、尻で後ずさりしながら、かすれる声でつぶやいた。 白い着物の男は、たった今喰われた女の着物を拾い上げながら、近づいて来る。 「人を喰らって生きるのが化け物なら、お前も同じであろう。何を思うて女に近づいた?」 姿と同じく、深く美しい声だった。 眼前に着物が差し出される。 男は、震える手を伸ばし、着物を受け取った。 着物が男の手に移った瞬間、白い着物の男の姿が消えた。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加