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そして、心はどんどん空虚になっていく。
夜も更けた闇の中。
男は、背に感じる灼熱の痛みに耐えながら、とにかく逃げた。
下手をした。
検非違使に見つかり、矢を射かけられた。
背に2本。
刺さった矢は抜いたが、そこから血が流れ出ていく。
やみくもに走り続け、逃げ切ったと思って手をついた石段が、1年前の降りしきる霧雨のなか、座り込んで朱雀大路を眺めていた、あの場所だった。
男は、荒い息を吐きながら、頭を上げる。
大きな丸柱に支えられた楼門は、寂れてなお、堂々とした威容を誇っていた。
洛中と洛外を隔てる大門。
羅生門。
1年の時を経て、さらに荒れ、老婆から着物を奪った楼上に上がる階段は、半ば腐りかけている。
あの場所で、俺は生まれ変わったのだ。
老婆が死人の髪を抜いていた。
俺は、何をしているのかと質した。
あの時俺は、あらゆる悪を憎む気持ちに、老婆相手に刀を抜いたのだ。
とうに忘れていた感覚だ。
悪を悪と断じて、それを良しとしなかった1年前の自分を、男は爽快に思った。
たとえ、その直後に心変わりし、老婆の着物を奪ったとしても、あの一瞬、自分には確かに美しさがあったと思う。
あの桜は、人を喰らい美しく咲き誇る。
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