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桜が咲いて道に広がり、
華やかな風貌を晒す。
花びらが一枚下りてくる。
天然の躍り道を緩慢に、
ある姿がそこにはあった。
一人の旅人。
世の深紅にも染まることもない
その姿は、
ただの観光客と言われても、
差し支えないほどに、
能天気な顔をしていた。
風景を眺め、
一言呟く。
〝酷いもんだ〟
姿や顔は、
桜を眺めて有り難がるような、
表情にも関わらず、
辛辣な言葉を吐いた。
桜に表情があったなら、
きっと多分しかめ面をするだろう。
淡い茶色のコートと
同色の唾広帽子を被る旅人は、
桜の艶やかとも取れる
姿に心酔することもなく、
ただ歩く。
桜の花びらは、
ひらひらと、
旅人の周りを、
踊るように舞い降り続けた。
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