13章 風の大鷲炎の獅子

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・ アサドの邸から出て外を眺める。サンドリアージュは南の平地の近代的な新しい建物と、東の山並みに存在する城下の昔ながらの石の建造物が並ぶ二つの街からなる都だ。 アサドの邸がある南は車も走れるよう道路が街の真ん中を通っている。 開発地とあって砂漠も広がっているが、新しい建物も次々に建てられていた。 「美術館、大使館、城の見学──…どれからいく?」 「大使館? 城?」 愛美はえっと目を見開く。 アサドは白いオープンカーの助手席を開けて愛美を中に促した。 運転席に乗り込むアサドは肩を竦める。 「軍の上官で王子の俺がエスコートする。行けないところはほとんどない──」 笑いながらアサドはサングラスを胸から取り出して掛けた。 「……頼もしい…」 愛美は笑うアサドに釘付けになりながらそう呟く。 「タノモシイ? なんだそれは? 日本語か? 何て意味だ?」 つい日本語で呟いた愛美の言葉にアサドは質問責めで訪ね返した。 頼もしい上にカッコイイ…… 白い軍服の制服にカッチリときまった帽子を被り、白いオープンカーとサングラスが茶褐色の肌を眩しく引き立てる。 愛美は思わず口端を拭った。 「どうした?」 「いや、つい涎が…っ」 「涎? 腹が減ったか?」 「いやいや…っ…」 「……?…」 こんなカッコイイ人の隣で色気のない会話だとつい肩を落とす。 アサドの車は先にレストランの前に止められた。
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