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「あった…」
無表情の中に何気にホッとした様子が見て取れる。ザイードのエンブレム、太陽と大鷲の描かれた旗を手にして呟くアレフを見ながら、アデルは無理に退かされ痛めた首を撫でていた。
「わたしに対してのお前の振る舞いは相変わらずだなアレフ──…」
「おや、何かお気になさることでも?」
織り皺がよらぬよう旗を丁寧に筒状に巻きながらアレフは返す。
アデルはそんなアレフにふんと鼻を鳴らしニヤリと目を向けた。
「いやいや、お前のその性格がわたしは好きだと言ったまでだ」
そういいながらアデルは嬉しそうな表情を見せてソファに再び寝転んだ。
アレフはソファに横になり自分の毛先を弄んで鼻唄を奏でるアデルをちらりと見た。
何をどう気に入っているのか……
7人の王子の中でも一風変わったアデルは昔からそうだった──
城で職務に勤しむアレフの後ろを何が楽しいのか幼い頃からよく着いて回っていた。
書類に目を通す傍らで
「何故そんな物を読むのだ?」
「仕事だからでございます」
「何故、悪いこともしていないのに頭を下げる?」
「下の者の不備は私の責任だからでございます」
「なぜ今頃昼食を食べるのだ? 時期、夕食の時間ではないか?」
「………今、仕事が一段落したからでございます」
「………お前は一体いつ寝るのだ?」
「睡眠で足りぬ分は仮眠をしっかりとっております」
「………」
アレフから聞き出した質問の答えすべてにアデルは首を傾げて難しい顔を浮かべたものだ。
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