13章 風の大鷲炎の獅子

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「これは何ですか?」 目の前のテーブルに一枚の白い布が置かれていた── 絹のような光沢、滑らかそうな生地が部屋の光を反射する。 「古くに王家の女性が纏っていた衣装だ」 「王家の女性?」 アサドは愛美に頷き返した。全くの一枚布と箱の中に500円玉程のブローチが置いてある。金細工の真ん中に赤い瑪瑙(メノウ)のような石、そこには獅子の画が彫られていた。 「帰国の手続きをする間、時間が結構あるからな。マナミは交換留学でこっちにいることになっている──…向こうの大学に戻って何もこの国の事を知らぬでは分が悪いだろう? 違うか?」 「………」 それは確かにそうだと思った。少し考え込んだ表情の愛美をアサドはクスリと笑う。 「せっかくだ……この国の文化と王家の歴史を学ぶといい──…この衣装はこの国が古代ローマの支配下にあった頃の王家の衣装だ──…だからローマとエジプト、二つの要素が合わさったデザインになってる…着てみるか?」 愛美はアサドの説明に感心した声を漏らしそして頷いた。 一枚の布が衣服に早変わりするのは愛美も何度か目にしている。 繊細な指先で魔法に掛けられたように形を変えていく──
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