13章 風の大鷲炎の獅子

21/30
前へ
/30ページ
次へ
 背後ではターミルの溜め息とソファから立ち上がる気配がする。ターミルは静かに口を開いた。 「取り合えず──…アレフが昼前に邸を発ったそうですわい……夜半にはこちらに着く手筈、マナミ様と話をすると思うですから……まだ先はどうなる決まったとは……」 ターミルは言いながら語尾を濁していた。 アレフが何を話すかはわからない── この国に残るよう説得するのかどうか、後はアレフに託すのみだ。 ターミルはそっと扉を開けるとザイードの居室を後にした。 静まり返った居室で目を閉じれば愛美のあの怯えた瞳ばかりが思い出される。 大事にしようと思った矢先だったのに── 鏡に映る愛美の姿を目にして嬉しかった筈だったのに、自分から隠れたと知れた途端に抑えられぬ感情が沸いた。 腕を捕えて逃げる愛美を抱き締めるつもりがあの怯えきった瞳に酷くショックを受けた。 たった一晩、別の男の元で過させた。それだけでも我慢ならないのにアサドの物を身に付けているのを目にしたら…… どうしても奪われた気がしてならなかった──
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加