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“見逃してくださいっ…”
「……っ…」
愛美の言葉を思い出し、ザイードは唇を噛む。
「…見逃す…?…っ…はっ、どうやって?…っ…」
涙を目に溜めて必死に訴えた愛美の言葉に胸が軋む。
「…どうやったら見逃せるっ……っ…俺だって知りたいっ…」
ほんの気紛れで拐っただけだった──
ここまで嵌まるつもりではなかった…
仰向けになってザイードは震える唇を強く結ぶ。
「……っ…俺を夢中にさせたのはお前だっ…」
愛美を想う押さえ付けられない感情が溢れザイードは苦し気に声を出し絞った。
手離すならもっと早くにそうしていた。
それを出来ない何かが胸の奥に芽生えていた──
王家のしがらみも何もかもを忘れて抱けることに幸せを感じたからこそ……
いつしか愛美に心を開いていた筈だったのに…
身勝手な疑似暗鬼に捕われて愛美を手離したからいけなかったのだろうか…
あのまま愛を囁いていれば──
今はこの腕の中に居る筈だったのにっ…
「……っ…」
愛美が国に帰ることを望むならそうしてやらなければならない。
ザイードは胸を裂く想いに唾を飲み喉の熱を何度も冷ます。
心の中に入り込んだ物を取り出すのは容易ではなかった──
ザイードは苦しい思いのまま目を閉じて胸の痛みを堪える。
今はただそうすることしかできなかった……。
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