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 ――ねえ、あの子はどこに行ったの?  衰弱した猫は私の根元で蹲り、か細い声で問う。  猫は愛しいひとを求めてあらゆる場所を彷徨った。  私の想いを道連れにして、ずっとずっと、ただひとりの愛しいひとを求めて旅していたのだ。  この場から動けない私の分まで、ずうっと。  私は、桜。  とある町の、古い神社の一角に根付き、悠久を過ごしてきた。  かつてはこの大振りの枝にたくさんの花を咲かせ、多くの人や神を魅了したのだけれど、それもまた遠き日のこと。  私は、あまりにも永きを生きすぎた。  この地に宿る土地神の恩寵を受け、いかに図体ばかりが立派になろうとも、やはり年には勝てぬのだ。  幹はとうに曲がり、生命力の衰えと共にあちこち傷みも生じてきた。  手当てを受けねば、とうに枯木となっていた私を、人は【老いぼれ桜】と呼ぶ。  この老いぼれの、かつての優美な姿を知る者は、よもやいるまい。  そしてこの老いぼれは、ただひとりの愛しいひとが消えてからというもの、とうとう花の一輪すら咲かせられなくなってしまった。  ――私の愛しいひと。   独り眠る貴方に花を捧げたいのに、私にはその一輪すら咲かせる力はない。  私の根元で蹲る満身創痍の猫を見下ろし、己の無力を嘆く。  疲れ果てたこの子に真実を伝えてやれぬ自分が、なんと憎らしいことか。  ――哀れな子よ。   私たちの愛しいひとは、今、私の下に埋まっているのです。  
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