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明日には出港するという夜。ミユキが食堂で本を読んでいると、戎が背表紙をパチンと指ではじいた。
「またその本かよ。好きだな」
「私の勝手でしょ」
「だな……。俺の記憶も作られたものならいいのにな」
戎がミユキの隣に座る。
「なぜ?」
「本当の自分は楽しい青春を謳歌しているのかもしれない。それなら、今の記憶が消し飛ぶのが楽しみじゃないか?」
「馬鹿じゃない。本当の記憶は、もっと悲惨なものに決まっているわよ」
「ミユキは夢がないな」
「ヨウイチの夢って何よ?」
「俺は、……そうだな。家庭を持って……」
「妻や子供を殴る?」
「そういう言い方はやめてくれよ」
「言い方を変えたって、結果は同じよ。私たちに幸せはやってこない。私もあなたも、人殺しなんだから」
戎はチェッと舌打ちをして立ち上がった。
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