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魚雷が開けた大穴から、大量の空気と共に乗組員150人分の恐怖と絶望が溢れ出した。
「クッ……」
ミユキは胃袋をかき回されたような不快感を覚える。
いつもそうなのだ。シミュレーションならば敵を沈めて得られるのは勝利の爽快感だけだが、実戦では達成感と同時に不快感と疲労やってくる。
「ミユキ。よくやった」
戦術長の 忌部亜佐美(いんべ あさみ)少佐の声と共に頭の中から海と敵潜水艦のイメージが消えた。代わりに浮かんだのは青白い亜佐美の顔と風呂だった。
湯船につかって疲れを癒したい。だが、潜水艦の中では無理な願いだ。
「シナプス接続オフ、……イオン粒子排出、……システム・スタンバイモード」
ヘルメットの銀色のシールドを上げ、取り外す。
カプセルを出て戦闘服を着ていると、戎ヨウイチ(えびす よういち)が祝福する。
「おめでとう」
戎はミユキと同期の22歳。やはりサイコファイターで少尉だった。
サイコファイターは特殊な技能を持つことから、入隊と同時に尉官とされた。
「150人殺したのよ……」ミユキが応える。
「潜航したまま領海に侵入するのは宣戦布告も同じだ。攻撃を受けたからといって、文句は言わないさ」
ミユキは戎を無視し、小さな自室に戻った。音楽プレーヤーを耳に当てると一冊の本を片手にしてベッドに横たわった。
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