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深夜のコンビニ店内。
唐揚げ調理マシンが出来上がりを知らせてくれる。油からカゴをあげる。
「いやー。悪ぃ悪ぃ。夜のバイトが残業で」
大きな体に角刈りの頭。急いで来たのだろう、顔を真っ赤にしてカウンターに入ってきたのは、小倉渉(おぐらわたる)。26歳。わたしとペアで、この深夜を受け持っている。手洗いもそこそこに、小倉くんはきりだす。
「ホールのバカがやらかしてさー。料理長、キレて鍋投げるわ、チャンバーのドア蹴るわで」
肩をすくめてみせる。
「それってパワハラじゃん。いまどきいるの、そんな人」
「飲食なんて、どこもそんなもんだぜ。洋食も和食も行ったけど、だいたいそんなかんじだったな。殴る、蹴る、怒鳴るはあたりまえ」
あんたが行ったとこが、たまたまそうだっただけだよ。と言ってやりたいが、過去の職歴を誇らしげに話す彼には言えない。
小倉くんは、筋金入りのフリーターだ。ひととおりはやった、と豪語している。たいていヒマなので、そのひととおりをわたしはすでに知っている。中にはキノコの栽培などというものもあって、それは人間のすることじゃない、と言ったら
「バカヤロウ。キノコはな、ただ暗いところで放っておくんじゃないんだ。人間の細かな気配りがなかったら、おいしいものにはならないんだ。ロボットなんかにまかせちゃいけないんだ」
と力説されてしまった。それからは、なにか疑問に感じても、なにも言わないことにしている。
自動ドアが開いて客がカウンターへ来る。
「いらっしゃいませ」
小倉くんは、いつの間にか商品棚のところにいる。少し斜めに陳列されたお菓子の袋を、ぴっちり並べ直している。
客に商品を渡しながら気づく。あ。白シャツ黒ズボンの男。
このごろときどき見かけるこの男。小倉くんと同じくらいの背丈だけど、もっとシュッとしている。背中を見送り外を見る。いつも車でやってくる。はじめはホストかと思ったが、そうではないような気がしている。だいたいホストなわけがない。さんざん飲んで、車で帰宅なんて、飲酒運転の罪人だ。この男は、明け方ふたたびやってくる。きまって、タバコと炭酸水を購入する。
そしてなぜだかとてもいいにおいがする。
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