君色スカイライン

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 四季折々、風の匂いと空の色は違っていた。季節のもたらす自然の変化に気付くたび、ひどくやるせない思いに苛まれた。  社会人になった今もそれは同じで、いい大人だというのに空の色や風の香りの微々たる変わりようにいちいち心を揺さぶられてしまう。神経質なのかデリケートなのか分からないけど、そんな自分が情けない。  社会人になって一年目になる頃、そんな自分をなんとかするためネットで小説を書くことにした。幼なじみのミユキが、私にはそういうのが向いてると助言してくれたからだ。ミユキいわく、私は感受性が強すぎるくらい強いのだとか。自分ではよく分からないけど。  もちろんプロなど目指していないし魅力的な物語を書く自信もなかった。それなのに、意外と読みにきてくれる人は多く驚いた。仕事でも感じられなかったやりがいを覚え、快感になった。それに、小説を書いていると昔から抱えてきた漠然とした不安や未来への恐怖が和らぐのを感じた。書くことにはまった。  夏頃、空をテーマにした短編小説を書いた。偶然流れ星を見た少女が片想いの相手を思い起こすという、至って平凡でありきたりなストーリー。すると、初めて読者の人からメールをもらった。ネット小説にはレビュー機能があるけど、その人はサイトのメール機能を使って感想をくれた。  ハンドルネーム水瀬(みなせ)。私はその人のことを水瀬さんと呼ぶことにした。水瀬さんのプロフィールを見ると私よりひと回りも年上の男性だということが分かった。彼自身、自作の本を何冊か出版している人だった。  彼は、ネット小説の世界で書き手の誰もが憧れる書籍作家という存在だった。皆が皆そうではないだろうけど、ネットで小説を公開している人の大半は自分の作品をいつか世に出したいと願う作家志望のユーザーばかりだと聞いたことがある。
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