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「……どうしたの?」
「いえ、ここの桜は桃色が他の所より少しばかり濃く色づいていて綺麗だなと思っていたのです。こういう桜の前ではついつい体が動いてしまいますね」
そういうと青年は立ち上がって、いきなりクルクルと回りだした。
……これは、舞?
青年の舞は表情や指の先まで洗練されていて、見ているこっちはその動きに目が釘付けになっていた。
青年の舞が一通り終わったらしく、ぺこりと一礼をする。私はパチパチと手を叩く。
「凄いね。まるでプロ見たい!」
「家が舞踊家の家系なのですが、私はまだまだ未熟で……。日々練習あるのみですね」
青年は恥ずかしそうに答えた。
「それにしても、こういう濃く色づいた桜には眠っていそうですね」
青年はそう言いながら桜の木の周りをグルグルと歩き出す。まるで何かを探すかのように。
「えー、何が眠っているの?」
私は一つ目の紙袋からリンゴ味のチューハイを取り出しながら訊ねる。
「……死体が」
青年の声は何処か楽しそうだった。
「え?」
その言葉にチューハイを開けようとしていた手が止まる。
「もう、そんな怖いこと言わないでよー。折角のお酒が不味くなるでしょ?」
私は乾いた笑いを浮かべる。
「あ、すいませんでした。折角の花見ですものね。でも、桜の下には死体が埋まっているって良く聞く都市伝説なので。もしかしたらと思って」
彼はひょいひょいと桜の根っこをバランス良く歩いていく。
「それは都市伝説の話でしょ? そんなの現実にはありえないって」
「それはどうでしょうねぇ?」
青年はそう言って笑った。先ほどまでの印象とはガラリと変わって嫌悪感さえ覚えるほどの笑みだ。
「ここ数年、一定の期間で忽然と人が消えるという事件が発生しているのはご存知ですか?」
「え。えぇ、ニュースとかで何回か見たことあるわ」
三月から四月にかけて行方不明者が出るという事件が起こっているというものは私もニュースで見ているから知っている。でも、別にこの街に限定しているものでは無かったので気にすることはなかったのだけど。
「その行方不明者の死体がココに埋まっている。とかだったら、さぞかし面白いのでしょうねぇ」
青年は地面を指す。
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