濃く色づく桜に”キョウ”を一杯

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「おやおや、随分と積極的なんですね。保志ヒカリさん?」  青年はそう嗤いながら私の名前を呼ぶ。  コイツ、私のことを知っていたんだ。消さなきゃ、消さなきゃ。  私は気づけば転がっていた包丁を握っていた。  真相は埋めなきゃいけない。この桜の木へ。そうすれば、私はまた平穏に暮らしていけるんだ。 「シネ」  包丁を青年に振り下ろした時、私の鼓動は先ほどまでとは違って落ち着きを取り戻していた。  まるで、心臓が止まったかのようにしんとしている。 「あ……れ……?」  カランと包丁をまた落す。  拾わなきゃ……。真相は全て桜の木の下へ埋めなきゃ……。  地中深くへと。  落とした包丁を必死に探そうにも、体が上手く動かない。 「貴女の負けです。大人しく寝ていてください」  そういう青年の手には何か握られて様な気がしたが、ソレが何かを確かめる前に私は目を閉じた。
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