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僕とこんな状況になってしまったことすら彼に申し訳ないと思っているのだろう。
彼女は悲しそうに顔を歪ませて俯いている。
「ごめん、そんな顔しないで」
「ごめんなさい……」
笑いかけるとようやく彼女もぎこちなく笑みを返してくれた。
「悪者になりそこねたな。戸川君は奪うタイプでしょ?」
わざと軽く問い掛けると、彼女は安心したように「そうですね」と表情を緩めた。
「戸川君、最初は強引でした。私を裏切った元彼の前で、当て付けの……キスを。彼とはほとんど初対面だったのに」
「僕も次、誰かを好きになったら彼を見習うよ」
まだ緊張が解けきらない彼女に、冗談めかして微笑んでみせた。
でも、僕が次に誰かを好きになるのは遠い先だろう。
「出ようか」
「……はい」
会議室を出ていく彼女の背中を見つめながら、まだ残る温もりを心に刻みつけた。
こんなに好きになるまでに・終
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