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「そ……それは景品で……」
しばしの沈黙の後、たどたどしく口を開いたのは俺だった。
やましいことは何もない。
こんな少女趣味のブツを持ってることが恥ずかしいだけだ。
「景品……?」
「うん、ほら、空港で化粧品買ったらくれたって」
「化粧品……。戸川君が?」
紗衣の声がわずかに尖った。
まずいまずい。
「いや。俺、じゃなく。相原が」
何で片言になってんだ俺は。
「渡辺さんじゃなくて?」
「ち、違う!」
「……」
ああ。さっきまでの幸せな空気はどこへ。
なんで俺は化粧品なんてどうでもいい情報を口にしたんだろう。
変な疑いかけられたじゃないか!
「相原って海事の男だよ。ほら、社食で紗衣に話しかけてきたっていう奴」
「ああ、あの相原君かぁ。……でもさ。男の人が化粧品買うの?」
「……姉ちゃんにとか言ってた」
嘘じゃないのに嘘臭い。
「とにかく景品て。新品だし!」
しかし、マグカップを捜査員みたく丹念に引っ繰り返して見ていた紗衣がぼそりと呟いた。
「……シール剥がした跡あるし、コーヒーの染みが残ってる」
女って……怖い。
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