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「それ、相原が出張で泊まりに来た時に一回使っただけだからな」
「……」
「渡辺を泊めたことはないし、渡辺が持ってきた物じゃないから」
「わかった」
「言っとくけど、本当に相原だからな!」
我ながらくどい。
くどすぎて逆に怪しい。
「……わかった」
分かったと繰り返しながら、腕の中の彼女の肩はどことなく強ばっている。
「よし。待ってろ」
相原に電話して証言してもらう。
「いいって。そこまでしてもらわなくても」
紗衣は首を振ったけど、でもこんなマグに俺の清い一年間を冒涜される訳にはいかない。
何が何でも身の潔白を証明してやる。
今日本が何時かなんて知らん。
鼻息荒くダイヤルして待つと、
『もしもしー。戸川っちー?』
出た。
相変わらず間抜けた声の奴だ。
「お前、出張で来た時ピンクのマグ持ち込んだよな?あれのせいで俺に女がいたって疑われてんだけど!あれ、お前の土産だよな?」
『えーマグ?知らないよー』
「おい!成田の景品て言っ……」
『知らなーい。駄目だよ戸川っち、そういうの。それより今取り込み中ー』
クソ相原に髪の毛が逆立つ。
横にくっついて聞いてる紗衣が眉間に皺寄せ“そういうの?”と呟いた。
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