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戸川君に電話すると、まだ一時間ぐらい仕事が終わらないと言う。
ふと海外事務所の雰囲気が見てみたくなって、迎えがてら彼には内緒で訪ねていくことにした。
うちの社のロンドン事務所はシティと呼ばれるビジネス街にある。
歴史ある建造物に現代建築のビルが同居する様がとても新鮮で、憧れを掻き立てられながら石畳の道を歩いた。
受付には若い女性スタッフがいた。
最初はにこやかに迎えられたものの、戸川君を訪ねて来た旨を告げると、途端に眉をひそめられた。
「……リョースケ?」
そう聞き返して胡散臭そうに私をジロジロ眺めまわした末、無言で応接室らしきドアを顎でしゃくった。
「感じ悪……」
背中に視線を感じながら案内も無しにひとり応接室に入ると、我慢できずに独り言。
明らかに歓迎されていない。
なんで?
職場に来たの非常識だったかな。
それとも、戸川君無愛想だしスタッフから嫌われてるのかな。
その時、恐ろしい考えが頭を過った。
……まさか、戸川君。
あの受付の女の人に手を出した?
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