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年明けの会議室。
僕は彼女と二人で、午後の重役会議の準備をしていた。
「片桐さん。資料のセット終わりました」
「プロジェクターも済んでるよ」
年末のプロポーズから一週間。
あれから初めて顔を合わせる今日、まったく態度に出さない二人の間には以前の通り、同僚としての穏やかな空気が流れているように見えた。
彼女との出会いは一年余り前だ。
出会ってすぐにほのかな好意を抱いた。
けれど、彼女には恋人がいた。
ものすごく魅力的な恋人が。
最初から負けが決まっている恋なんて初めてだった。
でも、彼女が密やかに彼を思う姿がいじらしくて、半ば諦めながら微笑ましくその姿を見つめていた。
けれど、戸川君は彼女を一人残して海外へと旅立ち、おまけに新しい恋人の噂までが流れた。
痛みと寂しさに耐え続ける彼女を励ますうちに、気付けば戸川君に渡したくないと思うほど強く惹かれていた。
だから僕は辛抱強く待ち続けた。
いつか彼女の傷が癒えた時、僕の気持ちを伝えようと。
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