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けれど、そこは抑えて礼儀正しく挨拶する。
「初めまして。本社の経営企画室の成瀬と申します。お仕事中に申し訳ありません」
「え?経企室?……アテンド入ってたかな」
「いえ、プライベートでお伺いしました。戸川君のお仕事が終わるのを待たせて頂けないかと」
「えっ?」
おじさんはハンカチを取り出して、汗もかいてもいないのにせかせかと顔を拭い、どもりながら尋ねてきた。
「えーと、戸川君とはどういうご関係?……というか何というか」
「彼とは同期で……」
婚約したと勝手に言ってしまっていいだろうか?
「その、彼は、その、君が来ること知ってるのかな?」
「いえ。告げておりませんが」
そう言うと部長らしきおじさんは困り果てた顔をした。
「気の毒だけど、僕らはプライベートの揉め事に関わる権利はなくてだね」
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