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部長らしき人はハンカチを揉み絞ると、突如思いきったように毅然とした表情で背筋を伸ばした。
「君の気持ちは分かる。でも、こんなことは君のためにもならないと思う」
「……申し訳ありません」
海外事務所はフレンドリーだと聞いていたから、こんな風に断られると思わなかった。
でも考えてみたら、日本の常識なら職場に婚約者が来るのはどう考えてもおかしいだろう。
職場の皆さんに顰蹙を買ったと思うと、浮かれていた自分が恥ずかしくて項垂れた。
そんな私の様子に、部長らしき人は泣きだすとでも思ったのか、慌てて慰め始めた。
「彼のことを思うなら、会わずに帰った方がいい。辛いのはしばらくだけだよ」
「いえ、別に辛くは」
「若いうちは色々あるけど、時間薬って言ってね。君はまだ若いし、綺麗なお嬢さんだから、まだまだチャンスはある」
「はあ……」
何か……おかしい気がする。
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