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「実は……、年末に戸川君が帰って来たんです。お休みを取って」
一瞬、視界が揺れた気がした。
彼はもう帰って来ないと思っていた。
彼を信じるよう最初は彼女を励ましていたけど、一年間も彼女を放置した彼を、今さら許す気分になれない。
「……会えたの?」
「はい」
彼女の顔を見て初めて気付いた。
年末まで見ていた血色の悪さや表情の翳りもなく、艶を増した肌と表情に。
動揺を隠そうと壁に寄りかかりながら、結末をある程度覚悟した。
「それで?」
「結婚することに決めました」
彼女の心を開くのに、まだ時間はあると思っていたのに。
いくら時間がかかっても構わないと思っていたのに。
「いつ戸川君は帰ってきたの?仕事納めの時は、まだ君は彼が帰ってくること知らなかったのに」
「そうなんですけど……」
彼女が言葉を濁した。
「私、彼を諦めようとした時、けじめをつけるために携帯の番号を変えてしまったから……」
「じゃあ突然、来たの?」
「はい」
「いつ?」
彼女の目が揺れた。
もう聞かなくても分かる。
戸川君がプロポーズしたんだ。
あの日、僕の直後に。
「あの日です……」
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