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制御を失いそうな心を落ち着かせようと、大きく息をつく。
「……そうか。おめでとう」
この一年間、僕は彼女をずっと見守り続けてきた。
でも君は、君を一人にしてあんなに苦しめた男を選んでしまう。
「成瀬さん」
壁に寄り掛かっていた体をゆっくり起こした。
「あの時、少し迷ったよね」
「……はい」
いつも彼女は正直だ。
残酷な事実も、儚い期待を抱かせる事実も、彼女は否定しない。
だから僕は一歩踏み出した。
「あの時もし僕を受け入れてくれてたら、その後で戸川君に会った時どうしてた?まあ僕を受け入れてくれてたら戸川君には会えなかったと思うけど」
「え?」
「あの日、君を帰さなかったはずだから」
僕の言葉に彼女が目を見開いた。
そう。分かってる?
苦しむ君をもっと苦しめたくなかったから僕は隠してただけ。
男としての自分を。
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