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「お別れの印」
そう囁いてそっと彼女の頬をとらえると、彼女がびくっと体を震わせた。
「お別れの印って……」
そんな擦れ声で僕を煽らないで。
僕が何をしようとしてるのか、彼女はもう悟っているはずだ。
「もっと早くにこうしていればよかった。待ってたこと、後悔してるよ」
この一年間、バランスを失った彼女を強引に僕のものにするチャンスは何度もあったのに。
体だけでも奪ってしまえば、いつか心も手に入っただろうか。
「片桐さん……やめて……」
親指で柔らかな唇に触れる。
今までずっと触れずに僕が大切に見守ってきたこの唇は、いつだって彼のもの。
嫉妬にかられてもう一方の手も伸ばし腕の中に閉じ込めると、彼女は目を見開き体を強ばらせた。
「だ……」
駄目、と言いかけた唇の隙間に指を滑り込ませた。
そのしっとりと柔らかな湿り気に、もっと奥深くを求める自分を止められなくなる。
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