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「遠慮するんじゃなかったよ……ずっと待ってたのに」
「待って……」
「何を?」
もうすれすれの彼女の唇に囁く。
戸川君には黙っていればいい。
「キスなんて外国じゃ挨拶だよ。それに今は誰も見ていない」
悪者になっても構わない。
君の中に僕を刻み込ませて──。
震える体を抱き寄せて、唇が彼女に触れようとした瞬間。
「─…っ」
彼女が目をぎゅっと瞑り、僕の指に逆らい唇を固く結んだ。
逃れようと捩る体、
押し戻そうと抗う手。
……僕はそんな君が好きだ。
誰かを一途に思い、流されず、秘密を作れない君が好きだ。
切ないジレンマに笑いたくなる。
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