こんなに好きになるまでに~片桐怜樹編

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「そんな顔されたらできない」 まだ腕に捕えたままの、彼女の辛そうに背けた顔を見下ろした。 力で唇を奪うことなんて簡単だ。 だけど、きっと君は罪悪感で苦しむよね。 腕の中にいても、君はやっぱり遠い。 でも、君はじきに結婚する。 今この腕を解いたら、二度と君に触れることはできないから。 「今だけ、許して」 彼女をきつく抱き締めて、一瞬で放した。 弛む腕の中から一歩後ずさる彼女の甘い香りだけが残された。 最初の頃は、昔の恋人を彼女に重ねてるんだと思っていた。 でも、違っていた。 僕は彼女が好きで、そう気付いた時には好きになりすぎていた。 この一年の間に、もし僕が強引に唇も体も奪っていたら、彼女は苦しみながら僕を好きになろうと努力しただろう。 こんなに好きになる前なら、躊躇なくそうして奪ってたのに。
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