ようこそ山茶花病院へ

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じっと岡部先生の顔を見詰めていると頭がフラフラと揺れる様な感覚がして、自分の頭を抱える。 貧血だろうか。そう言えば俺は三日も寝たきりになっていたのに点滴も付いていないが、そのせいでこんなに疲労がたまっているのかもしれないとおもう。 ふと自分の患者衣をめくり上げてぞっと背筋に冷たい物が流れる感覚がした。 自分の腕に無数の注射針の痕と引っ掻き傷の様なものが混在しており、そこは赤黒く変色して腫れていた。 これは俺が寝ている間に自分で引っ掻いてしまったものなのだろうか。 一気に倦怠感が強くなり座っていた椅子から転がり落ちる様にバランスを崩してしまう。落ちた衝撃や痛みさえもどこか遠くに 感じながら、自分の事を覗き込んでくる岡部先生を見上げる。 もう指先を辛うじて動かすくらいの余裕しかなく、口も動かす事できない。 視界の中に映った岡部先生は何やら神妙な顔つきになってから、白衣の胸元からピッチを取り出すと電話をかけ始めた。 きっと俺が倒れたから応援を呼んでくれるんだろうと思っていたが、まだ正常な機能を保っていた聴覚は彼の言葉をしっかりと捉える。 「もしもし、8Nの岡部だけど。例の患者やっと鎮静剤きいてきたみたいだ。ああ、意識朦朧って感じだけど」 ちんせいざい。     
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