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一度は通った事のある廊下であるが、前回の時とは違う点はただ一つ、窓の外の景色が夜であることだろうか。吸い込まれそうな闇色に頭がまだぼーっとしている気がした。一体前回ここに居た時から何時間、いや或いは何日経っているのだろうか。
俺が窓の外を見ていると、不意に肩に手が乗せられた。青年が呆然としていた俺を急かすように叩いた様だ。
「あんまり外を見ない方がいいよ。ここは籠だから」
「え?」
「…入院中じゃ先生が良いって言わない限りは外に出られないでしょ。だから、あんまり外を見ないようにしてるんだ。遊びに行きたくなっちゃうから」
青年は余程病気の経過が長いのだろうか。確かに今にも倒れそうな程顔は白いし、俺 の肩に乗っている手も掴めば容易に折れてしまいそうな程に見える。
入院なんて今までしたことがないから分からないが長期入院になればそういう考えにもなるのだろう。俺が頷くと青年は少しだけ口角を上げて笑ってから歩き出した。
静まり返った廊下には青年の履いているスリッパが床を擦る音と、俺の素足がペタペタと音を立てているだけだ。
「ところで、どこ行くの?先生の所?」
「先生の所は後で大丈夫だから、先に君の病室に行こう。裸足じゃ寒いでしょ。履くもの持って来よう」
青年が入った迷いなく入っていく病室の表札には862号と記してあった。部屋番号だと思われるその下には今は点いていないが液晶画面の様なものがついている。
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