ようこそ山茶花病院へ

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きぃと少しだけ耳障りな音を立てながら開かれた扉の先からは、目を焼く様な眩しい西日が差しこんできた。 今は夕方なのかと頭の隅で思いながら、一歩部屋の外にでる。 そこは案の定長くて白色の廊下であった。 自分が出てきた部屋の扉を見ると飾り気のない文字で「処置室」と書かれている。 どうやら本当に俺の病室ではなかった様だ。 窓の外はそろそろ夕闇に落ちていく時間だというのに、病院の廊下には電気さえついていなかった。 何とも管理のなっていない病院なんだろうとは思ったが、そんな事よりもまずは自分の事が優先である。 看護師であれ医者であれ兎に角病院のスタッフにあって事情を聞かなければいけない。 人気のない廊下は夕日のせいで真っ赤に染まっていて、なんだか少しだけ寂しい気分にさせられた。公園で思いきり遊んだ後に、皆とお別れをしなければいけない昔の記憶が蘇ってくる。 ペタペタと廊下には自分の裸足の足音だけが響いていて、どうにも他の人間が居るとは思えない静けさである。 時折扉の開いている病室を見付けては興味本位で覗いてみるが、そのどの部屋でもベッドが空っぽであるか、もしくはこちらに背を向けた患者がベッドの上で眠っている所であった。     
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