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それでも患者が居るという事実に少しだけ安堵しながら暫く道なりに歩いていると、とうとうナースステーションであろう受付を見付けた。
受付には事務用品が置かれている机とパソコンが置いてあるだけで、人の姿は見えない。
しかしその奥の方によくテレビで見るナースステーションの事務所がチラリと見えて、一瞬躊躇った後 に足を踏み入れた。
ぺたり。自分の足音がやけに響く気がして気が引ける。
そのままナースステーションに踏み込めば、漸く待ちに待った人の姿があった。
何台か並んだパソコンの前に、白衣を纏った男の人が座っている。
俺はその姿に内心だけで喜びの言葉を上げながら、恐る恐る話しかけた。
「あの、すみません」
男は俺の声が聞こえたようで、物凄い勢いで此方を振り返った。
色素の薄い茶色の髪が寝癖なのかなんなのか、重力に反してあっちこっちに飛んでいる。
「俺、起きたらここに居て。ここ病院ですよね?」
男の眠そうに細められた目がじっと俺を見詰めてくる様子に、俺は何かおかしなことを言ってしまったのだろうかと心配になる。
理由は分からないものの男の視線から疑いの色を感じたからだ。
「ああ、起きたら知らない所に居てさぞかし驚いた事でしょう。僕は貴方の主治医の岡部 只彦と申します」
白衣の男は一瞬にして先程の疑わしそうな目つきを止めてから、穏やかな口調で名乗った。
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